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人の話は、聴いていると思っていた。 でも、相手の話はほとんど、憶えていなかった。 これが聴覚障害か?と気づいて改善できた物語。
わたしは美容院の見習いです。 転職が5回めです。 働いて二ヵ月くらいすると、職場のお店に行けなくなります。お客さまとの会話をうまくつなげられないのです。 お客さまに何か話しかけることができません。 お客さまが、こうしてほしいという希望のことを話しても、すぐに明るく反応できないのです。
わたしは、人と話をしても話をしているフリをしています。 人の話も聞いているフリをします。声は聞こえています。 話されている言葉の中に分かる言葉と分からない言葉があります。 お客さまが希望の髪形や完成のイメージを話す言葉も、聞いていない言葉があるのではないか?と頭の中がまっ白になります。
一日の仕事が終わって、反省会をします。 先輩の女性が「お客さまの山田順子さんのご希望はどういうものでしたか?」と質問します。 わたしよりも若い女の子は、すぐにくわしく説明します。 わたしは、説明のための言葉が何も出てこないのです。 お客さまの言葉も忘れています。お客さまのヘアスタイルのイメージも思い浮びません。 わたしは、年の若い女の子に嫉妬します。そしてその女の子を憎むのです。
美容のお店には、親切な女性の先輩がいます。 美容の技術の腕を磨くために、特別にレッスンをしてくれます。 就業後の時間です。 わたしは、その先輩がおこなって見せてくれる手の動きやハサミ、レザーなどの使い方は目で見ていてよく分かります。 しかしその全部を憶えられないのです。なんど見ても憶えられません。そして間違ったやり方をしてしまいます。 先輩は、顔はにこにこと笑っています。先輩は、もういちど言葉でおさらいをしてくれます。復唱するわたしの声はヨソの人が話しているように聞こえます。テープレコーダーに録音して再生しているしゃべり方のようです。 憶えられていない言葉がいくつもあるのに気づきます。
春賀喜多子さん(24歳・仮名)の物語です。 人間の脳は、食欲などの欲や感情をエネルギー源にして働きます。 この欲や感情をすぐに受けとるのが、目、耳、舌、鼻、皮膚など五官の知覚です。この五感覚は、「遠くのもの」か「近くのもの」を認知します。 人間は、遠くまで歩いていって欲求の対象をとらえて自分のものにします。 そして生きていくのです。
人間は、遠くのものを正しく分かり、手に入れることで生きていくことができます。 これが人間の本質です。 |