[3668-1] 読むだけで幸せになる手紙・母の祈りを息子に届けられる物語 谷川うさ子 2015/03/06(金)13:24 修正時間切れ
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結婚した女性は、子どもの育て方で姑(しゅうとめ)との意見の違いにぶつかります。夫が実母に同調すると、女性は子どもの幸せを願って祈ります。男の子は、母親の喜びの表情を見たとき奇跡が起きます。
わたしは、小学校の教師をしていました。わたしの父親は幼いころに病気で亡くなりました。わたしには、妹がひとりいます。母親は、二人の子どもを育てられないと考えて、わたしだけを祖母に預けたのです。 妹は結婚しました。母も同居しました。ですが、妹の夫と折り合いが悪く、一人で暮らすようになりました。 私は、老いた母親が心配でした。 母親の世話をしてもよいという申し出があったので、今の夫との結婚に踏みきりました。夫は、農家の末っ子です。 結婚するとすぐに子どもが生まれました。男の子でした。
結婚したときからすぐ、姑が家に泊りに来ました。3日間くらい泊っていきます。家は農家の造りなので部屋はいくつもあります。どの部屋にも広びろとしています。庭先には、お茶や桃、柿、ミカン、梅などの樹々がいつも青い葉を繁らせています。季節には花が咲き、たわわな実が風に揺れます。実った果実の樹の下には、甘い香りが降っていました。 姑もわたしも、この庭から季節ごとに変わる空を眺めるのが好きでした。
子どもが産まれるまでは、姑は、わたしのおこなう洗濯の仕方や掃除の仕方をこまかく注意しました。畳を拭くときは、畳の目に沿って軽く拭く、洗濯は生地の重いものから洗う、同系色どうしのものを洗う、などです。 食器の洗い方は、重いもの、大きいものから先に洗って水気を拭き取る、重いものを下にして軽いものを上に乗せる、と言います。わたしは、はい、わかりましたと明るく言い、教えられたとおりに実行するようにしました。
男の子が生まれました。 一歳をすぎると、食事をひとりで食べようとします。子ども用のフォークを使って食べ方を教えます。 姑は、「そんなに叱って教えることはない」とわたしの顔をじっと見て言います。 「男の子は、のびのびと、何でも思うとおりにさせるのがいいのだ」と言います。 わたしは、姑に、もうこの家に来てほしくないとつよく思うようになりました。 姑は、わたしの調理もじっと見ていて注意します。 「ふつうの赤だしのミソは、最後に入れる。さっとふっとうさせてからトーフ、なめこを入れる。フタをして一呼吸おいて椀に入れる」と言います。香りが飛ばない、煮えばながおいしいのだ。じっとわたしの目を見て言います。 「白ミソは、コトコトと弱火で煮込む。ミソの中の と大豆の味が出る。だしは昆布かカツオでとる。アクを抜いてうす味のおいしさをいただく」。 姑は、わたしの顔を見て目をそらさずに言います。 わたしは、母親から調理の仕方を教わらないまま小学校の教師になりました。これも修業だと思いました。ノートに書いて忘れないようにしました。
長男は幼稚園に行くようになりました。玄関で家の中に入るときクツを脱ぎます。「クツをぬいだら、クツは揃えようね」と教えました。 これを見ていた姑は、「そんなにきつく言うことはない」と言って、子どもに「いいんだよ、そのままで」とかばいます。子どもは、おばあちゃんがいいと言ったとクツを揃えません。
夫も玄関で、履物を揃えずに家の中に上がります。夫に「履物を揃えてから上がってくれませんか」と頼みました。 子どもは、父親の言うことなら聞き入れるだろうと思いました。 夫は「うるさい」と言います。夫は、姑が来たときに、「履物のこととか、風呂場で脱いだ衣類をカゴに入れろとか、(自分は妻に)うるさく言われている」と(姑に)話します。わたしには(夫が姑に)告げ口をしているように聞こえます。 「そんなことをいちいち言うと、男の子はいのびのびと育たない」。 姑は、大声でわたしの顔を見ながら言いました。 |
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